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| 【3】 彼女と彼女の思い出 「死んだ子供の魂は月へ行くんだって」 さっきまで科学的なことを言ってて「すごいな〜」なんて関心してたのに、急にそんなこと言い出すから、拍子抜けして、何て返答すればいいのか困った。 だから、私、思わず「えーっ、そんな非科学的な事信じてるの?」って言ったのよ。 なのに、あなたときたら「そう思った方が気持ちが楽にならない?」なんて言うんだもの。本当に返事に困ったのを、今でも覚えてる。 「う〜ん…そうかなぁ。気休めにもならない気がするけど…」 だって、極楽浄土とか天国とかの方がいいような気もしたけど結局は同じ、気休めじゃない。少なくともあの時の私はそう思っていた。 理解できない私に、「じゃあ、神様って居ると思った方が気持ちが楽になる事ない?」 とあなたは言った。 何となく判った気がしたわ。神様って、いないけど、いざって時にすがってしまうのよ。 トラックに跳ねられた時の私がそうだったもの。 「…そういえば私、トラック…って言っても軽トラなんだけどね、それに跳ねられて2メートル位飛んだらしいんだ。頭から血が出てきて何が何だか判らなかったけど、“神様助けて”って心の中でずっと思ってた。 私の家は仏教なんだけど、一度も拝んだことないし、お供え物盗み食いしたりとかしてたのに現金なものだよね。でもその時はどこかで神様を信じて、助けてって思っていたんだと思う…」 事故にあった時、ただ私は頭を手で押さえ立っていた。まわりの赤いモノが自分の血だって漠然と感じるけど、理解できなかったし、痛いとも思わなかった。 救急車に乗せられてだんだん判ってきた。痛みと恐怖を。頭の中で響く。「私はもう死ぬのかな」って。怖くて、怖くて…ずっと震えながら「助けて、助けて神様」って呟いてた。 でも一番恐かったのは、お医者さんとお母さんの会話。私が寝てると思ったらしいけど、私は聞いちゃったのよ。 「お子さんは助かったのが奇跡的で、回復したあと知能障害が出るかもしれません」 それを聞いたお母さんは泣いていたわ。でも、もっと泣きたいのは私よ。 知能障害ってどういう症状が出るか、良く判らなかったけど、学力低下、あるいは記憶障害のおそれがあるみたいだったの。その日から私は九九を呪文のように唱えたわ。 それを聞いたあなたは「神様を信じるのと月の事を信じるのは一緒だと思うの」って言った。 その時は何となく理解できた程度だったわ。今なら理解できるわ。私って、理解するのに時間かかるのよね。 「ふーん。でもどうして真綾は月にこだわるの?月の地名も言えるなんてよっぽど好きなんだねぇ」 「自分の家の事は良く知っているものでしょ?」 「家??月に?」 そんな私の質問にあなたはただ微笑むだけで何も言わなかった。 今考えても、私って何にも考えずに毎日を過ごしている子どもだった。 そうして夜はあっという間に終わり、お盆も終わり、元気な患者達はまた病院に帰ってきて、病院にざわめきが戻った。 それからあなたに会うこともなく、私は医学の力か、神の力か、私は障害が出る事無く、無事8月の終わりには退院できた。 ただずっとあなたの事が、月の事が気になって仕方が無かった。 退院してから一週間後あなたに会いに行けたけれど、あなたの居た個室には別の人が入っていて、病院の何処にもあなたは居なかった。 看護婦さんに聞くのは怖かった。きっとあなたは月の家に行ってしまったから。独りで、ぽっかり浮かぶあの星へ。 その時私はあなたの言っていた事がやっと理解できたの。 あなたはいつか月に行かなければならない事を知っていて、それを信じる事であなた自身が救われていたんだって。私が九九を唱え続けたように、何かにすがりたかったんだって。 それが神様や月だったり、九九だったり様々だけれどそれで私達は救われた気持ちになるんだって…。 |
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